鎌倉での道草の話はもう終わりにして、
湘南歌会である。
歌会が終わってからいつも思うのだが、
歌会というのは、読みの瞬発力を求められるわけで、
たいてい歌会が終わってから、
ああ、これを言うべきだったとか、
ちょっとこだわり過ぎたな、もっと自然に読んでいい歌だった、などと後悔する。
終わってから気付くことが多々あるわけである。
だからこそ、歌会が終わってからそういうことを反芻する作業は大事であって、
自分に力をつけるためには必須だと私は思っている。
今回の湘南歌会で気になった歌がひとつあった。
例によって、まだ誌面に出ていない歌なので公開するのは遠慮しなければならないが、
あきあかねが飛んでいる原に寝転んで雲の中へ運ばれていく、
というような意味の歌である。
割と票の入った歌で、好意的な評が多かったのだが、
私はどうもいい歌だと思えなかった。
すぐに読み終わってしまう歌だな、というのが読んだときの第一印象だった。
歌の滞空時間が短いのだ、ストンと読み終わってしまう。
しかし、それを言うだけでは感想にしかならないわけで、
なぜそう感じるのかこの歌の表現のどこに問題があるのか、それを言うのが批評であるわけだ。
しかし、すぐに読み終わってしまう、という印象を短い時間のうちに批評としてうまく言語化
することが出来ず、指名されないまま黙っていた。
その歌について検討してみたい。
滞空時間の短さについては幾つかの問題がやはりこの歌にはあるはずだ。
まず、動詞の使い方。
二句・三句・結句に「飛ぶ」「寝転び」「運ばれ」という三つの動詞が使われている。
動詞が多いと歌が説明的になるわけだが、三つというのは普通なら許容範囲である。
しかし、三つとも比較的同一系統の動詞であるわけで、さらに動詞を挟んで
場を提示している構成がやはり歌を説明的にしてしまっている。
こうやってこうしてこうなった、基本的にそういう構造になってしまっているのである。
それともうひとつ、歌会の中で、石川啄木の不来方（こずかた）の城の歌を思わせる
という好意的な意見があったのだが、私はそれを黙って聞きながら、むしろ、不来方の歌との
違いにこの歌の滞空時間の短さを理解するヒントがあるような気がしていた。
不来方のお城の草に寝転びて空に吸われし十五の心 ／石川啄木
不来方（こずかた）城という固有名詞の持つ魅力もさりながら、
草に寝転び空を見上げている十五の少年を思い浮かべたとき、
読者はおのれの十五の歳に思いを馳せる。誰にも似たような経験があるはずであり、
読者はそれを追体験するのである。
読み終わっても読者の心の中には少年の日に見上げた青空が残っている。
読み終ってなお余韻が残る。
それに対し、歌会に出された歌はストンと読み終ってしまう。
ひとつには動詞の使い方に問題があり一首が説明的になっている故である。
それと、啄木の歌は、不来方→城→草の順番に読者の視点が大から小にスムースに動き、
下句でさっと青空を提示する。流れが自然で歌に情景を立ち上げる力がある。
鮮やかに立ち上げられた情景の中で読者は追体験に引き込まれる。
歌に読者をつかむ力があるのだ。
それに対して歌会に出された歌だが、
上句を読んで読者は、あきあかねが飛んでいる原に寝転んでいる作中主体を思い浮かべる。
しかし、下句に読み進んだとき、雲の中へ運ばれてゆく、という作中主体独自の「気分」を
提示される。ここに微妙なチグハグ感が生れる気がする。
正直、私は最初に読んだとき、
あきあかねはどこに行ったんだ？ 何の為のあきあかね？ と戸惑った。
情景の提示に続き、作中主体の気分の提示、という構造になっているわけだが、
上句は割りとありがちな表現で情景の立ち上げ力が弱い、
それが弱いまま「気分」を持ち込んでも、一首として成功しないのではないか？
一首が中途半端な歌になっている気がする。
啄木の歌は一首全体で情景を立ち上げ読者を引き摺り込んでいるのである。
好意的に評価した人達は概ね、
雲の中へ運ばれてゆく、という下句に作者の表現の独自性を感じたのであろう。
しかし、その独自性がこの歌では生きていないのではないか？
せっかく独自のものがあっても、表現が及んでいなければ歌に読者をつかむ力は備わらない。
だからこの歌はストンと終わってしまう。滞空時間が短い。
歌会の短い時間ではこういうことを漠然と感じることは出来ても、
批評として言語化するのは難しい。
力のある人はそういうことがその場で出来る。
せめて少しでもそういうレベルに近づきたいと思っているのだが．．．、
努力するしかないか．．．（＾＾；
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Date: 2009/07/30(木)
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