*--Diary--*

--Diary--

▼ ぶちょ～ 2012/12/21(金)
▼ シリア難民緊急支援 2012/12/19(水)
▼ 出雲その６ 2012/12/17(月)
▼ 出雲その５ 2012/12/14(金)
▼ 出雲その４ 2012/12/13(木)
▼ 出雲その３ 2012/12/10(月)
▼ 出雲その２ 2012/12/06(木)
▼ 出雲 2012/12/03(月)
▼ 代理と代表その２ 2012/11/29(木)
▼ ジュール・ブルトン 2012/11/27(火)

ぶちょ～

携帯にメールが入ってきたので見たら「ぶちょ～」という件名。
なんだこのメール？
差出人を見ると同じ支部の税理士。
読んでみたら「よろしくお願いしま～す」と書いてある。
ああ、そういうことか．．．。
来期、支部の某部の部長をすることになっている。
メールをしてきたのはその部の副部長になる予定の会員。
今年は支部の役員改選があり、
来期の支部長とか副支部長＆各部の部長・副部長が決まるわけで、
その陣容で二年間やっていくことになる。
今はどうなのか知らないが以前は、
支部長を引き受けると所得が３００万減ると言われていた。
会務が忙しくてどうしても自分の仕事は職員任せになったりするので、
それだけ影響が出るというわけ。
部長クラスはそんなことはないが、
それでも会議等出なければならない用事は増えるわけで、日にちはそれなりに取られる。
業界のため、それがひいては租税正義の実現のために必要、ということは分かっているのだが、
それでもやはり、自分の仕事以外にそうやって引っ張り出されるのもかったるいので、
出席任意の会の懇親会関係には出来るだけ顔を出さないようにしている。
賀詞交歓会も、夏の横浜港ナイトクルーズも、バス旅行も、忘年会も出ない。
顔を出さなければ役員選挙で落としてもらえるだろうという魂胆．．．（＾＾；
そう考えているのだが、ここしばらくこと志に反している。
ま、仕方ない、回ってきた仕事は余程の問題がない限り断らないのをポリシーにしている。
かくなるうえは、仕事は副部長達に任せ自分は仕事をせず、
副部長に仕事をさせるのが部長の仕事だと嘯いていられるような体制をつくるしかない。
そういうことで、ふくぶちょ～さん達、頑張ってください（＾＾；；

Date: 2012/12/21(金)

シリア難民緊急支援

国連難民高等弁務官事務所の外郭団体、国連ＵＮＨＣＲ協会からの
ニュースを紹介します。
シリアの内戦で現在４０万人以上の難民が周辺国に避難しています。
厳しい状況下で新しい年を迎えなければならない人々に支援をお願いしたいと思います。

　　　　http://www.japanforunhcr.org/activities/em-syria_22/

Date: 2012/12/19(水)

出雲その６

揖屋神社に戻り境内を抜けて駐車場の方に行こうとしたとき、
鳥居をくぐって老人がひとり入ってきた。
私を見て「これはこれは、どちらから御出でですか」。
黄泉比良坂で掃除をしていた年配の女性と同じことを聞く。この辺やはり観光客は
そう多くないということか。
その老人としばらく話をした。揖屋神社の祭神のことや神主さんが最近、体調を崩して
いることなど聞いているうちに、さっきの藁の大蛇を思い出して聞いてみた。
「あれは荒神様ですよ。この地区で昔から信仰してます。ああやって藁で作って木に
巻き付けるんです。願い事をしながらあの紙のついた棒を差します。昔は婦人病に霊験が
あるということで随分遠くからもお参りにきました」
荒神信仰というのはよく分からないのだが、
その土地に根付いた日本古来の荒ぶる神で、畏れ敬うことで祟るのを防ぐものらしい。
ただ、この揖屋の荒神が婦人病に霊験あると言われていたことからすると、
ただ祟るだけではなく、畏れ敬う者はむしろ守護してくれるような存在なのだろうか。
祟り神に似ているかもしれない。
祟り神は畏怖され忌避されるものだが、
手厚く敬うとき、むしろそれが強力な守護神になってくれる。
菅原道真や平将門などもそれに属する。
怨念を持って死んだ者は祟りをもたらすわけだが、
鎮魂し厚く敬うことで、祟りをなすほどのその異形の力が守護神に変わる。
だから怨霊になった道真は鎮魂され祀られ学問の神になった。
おそらく、根底にあるのは日本古来のアニミズムであろう。
人智を超えた自然の力への畏敬であり、少なくとも西洋的な信仰とは全く異なる。
ついでにもうひとつ聞いてみた。
「ひょっとして、この藁の大蛇が注連縄の原型ですか？　似てますよね」
「さあ～、どうなんだろう、そういう話は聞いたことがないが」
そのあともしばらく話をし、
こういう神社を守っていくのは大変でしょう頑張ってくださいと礼を述べて駐車場へ。
その老人は神社の隅にオートバイを停めていたようで、そちらに歩いて行った。
車に乗ろうとしたとき老人が小走りに戻ってきて、駐車場の石垣の上から
大きな声で教えてくれた。
「それからね、昔はその道路のとこまで海がきてたんですよ。そう、揖屋神社のすぐ目の
前が海だったの。埋め立てとかで今は陸地になってるけど、昔は向こう側の平野に出るに
は、ここの山を越えなきゃ行けなかったんですよ。それじゃ気をつけて帰ってください」
それだけ教えてくれて老人はオートバイの方に戻って行った。
えっ！？
すぐそこまで中海が来てた？
すると、さっき、ここから黄泉比良坂の方へ歩いて行った道も昔は海だった？
山陰本線の踏切を渡って登っていったあの浅い谷は中海の入江に続いていたのか？
ということは、黄泉比良坂は海に続いていた？
帰ってから調べてみた。
出雲国風土記の研究のなかに面白い記事があった。
中海と日本海を隔てている弓浜半島は昔は陸続きではなく島だった。
その島は夜見の島と呼ばれていたらしい。
この夜見の島が死者の行く島とされていたのではないか、という説。
グーグルの地図で揖屋のあたりの地形を見てみると、確かに入江の跡のような細長い池が
あったりして、古代、中海はもっと内陸にまで及んでいたらしい。
今でこそ伊賦夜坂は歩いて数分の山道でしかないが、
古代の伊賦夜坂は尾根を越えて浅い谷間を中海の入江に続いていたのではないか。
その入江周辺あるいはその向こうの夜見の島が古代の葬送の地であったとしたら、
伊賦夜坂は死者を運ぶ葬送の道だったわけで、
それが神話の黄泉比良坂の原型になったのではないか？
揖屋神社すなわち伊賦夜の社はイザナミを祀っている。
愛する男に醜い姿を見られ、千引の石で黄泉の国に封印されたイザナミ。
その鎮魂のために揖屋神社はあるのではないか？
あるいは、この地で古くから祀られている荒神は、
遥かな歳月のなかで変容したイザナミなのかもしれない。
揖屋の荒神が婦人病に霊験あると昔から言われていたのは、
多くの神を生んだ母イザナミを鎮魂し畏れ敬うことでその力に守護してもらう。
そういう信仰だったのだろうか？
そんなふうに考えると、二本の木に巻き付いていた二匹の藁の大蛇は、
遠い古代の神イザナミとイザナギの記憶につながるものであるようにも思えてくる。

印象深い旅を終えて横浜に戻った。
出雲はまだ見るべきところが沢山あるようで、いずれまた訪ねたいと思っている。
戦前は皇国史観に歪められ、戦後はマルクス主義史観に貶められたが、
そういうプロパガンダ的視点を排除してひとつの物語としてそれを読んだとき、
日本神話は美しい神話である。
日本神話に限らず、神話や伝承は遠い古代の記憶をその背景にしていることがある。
その遠い古代の記憶に、いずれまた出雲を訪ねて触れてみたいと思っている。

Date: 2012/12/17(月)

出雲その５

東出雲、中海の少し南に揖屋神社がある。
出雲国風土記や日本書紀にも出てくるかなり古い神社。
それほど広くない駐車場に車を停め鳥居をくぐる。
休日だが境内には人影がなく静かである。
出雲といえば出雲大社や八重垣神社などが縁結びで有名だが、
揖屋神社はちと違う。
ここの祭神はイザナミである。
日本神話の黄泉比良坂がこの近くにあり、
揖屋神社は死んで黄泉の世界にくだったイザナミを祀っている。
縁結びより死者の世界に近いイメージがある揖屋神社には、
観光客もあまり来ないのかもしれない。
本殿はかなり古い感じがする。出雲大社と同じ大社造りだが、出雲大社の建立に
係りがあるという話だから、こちらの方が古いのかもしれない。
桧皮葺の屋根の一部がかなり傷んでいて、もうそろそろ修理した方が良さそうである。
本殿の前の拝殿で手を合わせる。
一瞬、ギクリとした。
拝殿の奥に銅鏡らしき丸い鏡があり、拝殿の正面に立つとちょうど自分の顔が映る。
教科書などに出てくる古代の銅鏡、あのいろいろな文様があるのは鏡の裏である。
表面は磨かれ、こんなふうに祭祀に使われたのだろう。
拝殿の奥の銅鏡のなかからこちらを見ている自分の顔、
なんとも不思議な気がしてくる。
拝殿にかかっている注連縄もいかにも出雲らしい大きな注連縄である。これもかなり古い。
しばしその注連縄を見上げて、何気なく後ろを振り向いたとき、
再びギクリとした。
うしろの木立のなか、二本の木に太い縄で作った二匹の大蛇らしきものが巻き付いている。
木の下には台があって、二匹の大蛇が口を開けてこちらを向いている。
その胴体が二本の木にそれぞれ巻き付いているのである。
すべて素朴な藁づくりで余計な装飾はない。
そしてその手前の土には、
割り箸のような木の棒に白い小さな御幣を付けたものが沢山刺してある。
なんだこれは？
関東では見かけない。
土に沢山刺されている白い御幣はなにかを願って大蛇に捧げられているようにも見える。
地元に伝わる古い風習なのだろうか？
見ているうちになにか、その木に巻き付いた藁の大蛇が注連縄の原型のように見えてきた。
拝殿の注連縄と木立のなかの藁の大蛇をしばし見比べる。
今日はこれからこの近くにある黄泉比良坂を歩きに行く予定。
いつまでも藁の大蛇に向き合っているわけにもいかないので、
本殿などをしげしげと眺めたのち、駐車場に車を置いて歩き出す。
揖屋神社を出て舗装路を東の方へ歩いてゆくと山陰本線の線路が近くなる。
周囲は静かな農村風景。右に折れて小さな踏切で山陰本線を渡る。
この先少し行ったところで二股に道が分かれていて、その左を入ると、
浅いそう広くもない谷沿いに道はゆるやかな上り坂になる。
道の右は山側、左の谷側は刈り入れのすんだ田圃で、その向こうには点々と農家がある。
道は舗装されていてその浅い谷のどんづまりの小さな駐車スペースまで続いている。
駐車スペースの向こうに碑のようなものがあり、年配の女性が犬を連れて掃除をしていた。
揖屋神社からここまで２０分くらい。
「いらっしゃい、どこから御出でですか？」
「横浜です、ここが黄泉比良坂ですか」
「ええ、そう言われてます。『瞬またたき』という映画のラストシーンは
ここで撮ったんですよ」と言って案内板を指差す。
その映画は知らないのだが、帰ってから調べてみた↓
　　　　　http://www.kankou-shimane.com/mag/mov/matataki/
このＨＰの下の方、ロケ地の紹介のところに黄泉比良坂が出ている。
映画のラストで主人公が亡くなった恋人に会いに黄泉比良坂を訪れるとか。
ロケ地紹介の写真の通り、いかにも古い鳥居のようなものがあり、大きな石がある。
「これが黄泉比良坂を塞いだ千引の石ですか？」と聞くと、
「その石は新しいもののようですよ」とのこと。
「ああ、いかにもそれらしい雰囲気を作ろうと石を置いた？」
「そうみたいですね～」と朗らかに笑う。
駐車スペースになっているところも昔は田圃だったとか、
ほかにもいろいろ教えてもらった。
イザナミが埋められた穴はどこですかと聞く観光客が結構いるらしい。
そういう観光客はあとから作られた古代チックな鳥居や石の方に目が行くわけだが、
肝心の黄泉比良坂はそちらではなく、駐車スペースの隅っこから上に続いている細い山道。
「こちらを行けばいいんですよね？」
「ええ、そこが伊賦夜坂です。坂を登って下って、向こう側の道に出ますから、
そこを右に行ってください。その先に小学校がありますから、そこを右に入れば・・・」
丁寧に教えてくれた。礼を言って伊賦夜坂を登る。
古事記にはこの伊賦夜坂が黄泉比良坂であると書かれている。
羊歯の多い暗い道で湿り気がある。少し登ればもう反対側に下る。
そのまま山道をほんの少し歩けば下の道路に出てしまう。
現代の黄泉比良坂、言ってしまえば歩いて数分のフツーの山道である。
なぜか道路に出る手前に小さな犬小屋があった。
本来ならこちら側が黄泉比良坂の入り口で、
ここから登って駐車スペースのあった方へ降りてゆくわけで、
観光客を呼ぶならそんな感じで少し整備した方がより雰囲気が出るかもしれないが、
この入口の方は普通の住宅街。
地区が違うとその辺の取り組みにも濃淡あるだろうから仕方ないのだろう。
さっきの女性に教えてもらった通りに歩いて揖屋神社に戻った。

出雲についてのブログ、黄泉比良坂を書いて終わりにしようと思っていたのだが、
長くなってしまった。続きをまた来週書いて終わりにする。

Date: 2012/12/14(金)

出雲その４

「その酒グラスでくれる？」
晩飯に入った宍道湖畔の居酒屋、カウンターに座ってしばらく飲んでいたのだが、
目の前にあった日本酒が気になった。
「王禄」という銘柄、島根の地酒となっている。
７２０ｍｌで３５００円となっていたから割と高い酒である。
値段的には久保田の萬寿と同じくらいか。
ひとり旅のときは大抵、夕食なしで泊まる。
夕食はホテルのレストランより地元の美味しい店を探して食べた方が楽しい。
宿泊したホテルで仲居さんにこの辺で美味しい店はないかと聞いたら、
近くの美味しい店を何軒か教えてくれた。
昨日は松江城の外堀の近くの井津茂という寿司屋に行った。
落ち着いた感じの店で客あしらいもよく寿司も美味かった。
今夜は宍道湖畔にあるしじみ館という建物の二階の居酒屋。
このしじみ館というのは、しじみなどの松江の名産を売っていたり足湯があったりする
ところなのだが、行ってみたら既に一階は閉まっていて電気も消えている。
なんだ休みかと思ったが、よく見ると二階は明かりがついてる。
建物の横の階段からあがるようになっていて、
一階は真っ暗だが二階の居酒屋は営業しているのだった。
広めの店で客もそれなりに入っている。カウンターに座りテキトーにつまんで飲んで
いたら、目の前の日本酒が気になったのだった。
しばらくしたらグラスと徳利の下半分を切ったような丸い器に入った王禄がきた。
飲んでみる。
うん、くせがなくてすっきり飲める。
なかなか美味い酒である。
飲んだあとの感じもよくて妙な後味とかは残らない。
さわやかな酒、という感じ。
へぇ～、出雲にはこんな美味い酒があったんだと感心。
美味しいのでついついおかわりしてしまい、三合ほど飲んでしまった。
締めに食べたしじみの味噌汁付きの蟹飯も美味くて満足。
勘定を済ませ、ほろよい気分で夜の宍道湖畔をぷらぷらしながらホテルに戻った。
宍道湖畔、しじみ館の二階、地魚も食えるなかなかいい店、確か、根っこや
とかいう名前だったか。
今回の出雲の旅、食事は結構美味いものを食った。
やはり旅先の美味しい店は地元の人に聞くのが一番いい。
それにしても王禄美味かった。
帰ってから調べてみたらホームページがあった↓
　　　　　　　　　　　　　　　http://www.ouroku.com/

Date: 2012/12/13(木)

出雲その３

昭和５８年、広域農道建設に伴う遺跡調査で、
調査員が田んぼの畔から小さな土器の欠片を見つけた。
周囲を調べたところ、谷あいの斜面から大量の銅剣が出土した。
日本の考古学史上の大発見となる荒神谷遺跡の発見である。
翌年、その近くからさらに銅鐸と銅矛が出土し、
最終的に銅剣３５８本、銅矛１６本、銅鐸６個が発見された。
この銅剣３５８本というのは、それまでに日本全国で出土した銅剣の総数を上回る。
宍道湖の東南、田園地帯のなかを走ってゆくと荒神谷史跡公園がある。
周囲には人家はなく森に覆われたゆるやかな丘陵があるだけである。
小さな博物館があるが、夕方近くで既に時間が遅いせいか来館者は数人だけ。
荒神谷遺跡発見の経緯や、発掘当時の状況等が写真等で説明されている。
出土した銅剣や銅鐸のレプリカも展示されている。
係の人に、遺跡はどこかと訪ねると、窓の外を指差して２００ｍくらい先の木立ちの
向こうと教えてくれた。
行ってみる。
丘陵の間の低いところが湿地になっていて、古代ハスが植えられている。
昔は田圃だったのだろう。
この湿地沿いの道で荒神谷遺跡発見の端緒になった土器の欠片が拾われた。
博物館から見えた木立ちを回り込むようにその道は続いている。
そしてその先の谷の斜面が銅剣や銅鐸が埋まっていた荒神谷遺跡である。
現在は発掘調査時の状況が再現されていて、
銅剣や銅鐸の埋まっていた状態を見ることが出来る。
今もこの辺りは森に覆われた丘陵地帯である。
当時は今よりさらに人家から離れた鬱蒼とした森だったのだろう。
自然のままの丘陵地帯で田圃もなかったのではないか？
なぜこんな鬱蒼とした谷あいの斜面に大量の銅剣・銅鐸・銅矛を埋めたのだろう？
諸説あるらしいが、今だ謎のままである。
祭祀の遣り方が変わったので大量に破棄されたという説もある。
なんらかの理由で隠されたのだという説もある。
祈りのために埋納されたのだという説もある。
どれも確証はない。
埋められたのは後漢書などに出てくる倭国大乱の時代であるらしい。２世紀か。
２世紀の後半あたりから地球は寒冷期に入ったらしく、
寒冷化により生じた凶作が王朝の交代などを引き起こしている。
中国で黄巾の乱が起きたのがやはり２世紀後半である。
日本でも瀬戸内海周辺の地域に敵の襲撃に備えた高地性集落が出現する。
あるいは２世紀の気象変動に伴う社会の不安定化が、
九州地方から東方への大規模な移住を引き起こし、
それが神武東征の神話の原型になったのかもしれず、
出雲の国譲りの神話も、その時期の王朝の交代が背景にあるのかもしれない。
夕暮れの迫ってくる静かな荒神谷の遺跡。
かってこの鬱蒼とした森のなかに大量の銅剣を埋めたのはどういう人々だったのだろう？
どういう思いで埋めたのだろう？
あるいは出雲の王権の交代に伴い、王権のシンボルが敵方に渡ることを防ごうとした勢力
が埋めたのかもしれず、
あるいは、滅びた出雲の神々への鎮魂に埋納されたのかもしれない。
すべては２０００年の時のかなたの出来事であり、
窺い知ることは出来ない。
小さな遺跡である。
夕暮れのせまる遺跡を眺めながら、
騎馬でやってきた一群の兵士達が周囲を気にしながら人夫を督促し、銅剣を
埋めてゆく、そんな幻をつかのま思い浮かべてみた。
荒神谷は静かな遺跡だった。

Date: 2012/12/10(月)

出雲その２

朝、宍道湖北岸の道路を出雲大社へ。
曇っているが雲の間から日の光が出雲平野に差し込んでいる。
いわゆる天使の階段というやつ。
うん、厳かな風景。
出雲の神々に歓迎されてる気がしてくる。
宍道湖と中海の周囲に広がる出雲平野は車で走ってみると結構広い。
昔は海あるいは湖だったところが堆積して平野になったからだろう、起伏の少ない
平野が広がっており、それを遠くの山々が囲んでいるという感じ。
湖には幾つもの川が流れ込んでいるわけで、
古代から出雲の地は稲作の適地だったのだろう。
生産力があれば富が蓄積し、その蓄積の偏在が社会に階層をもたらす。
そして王朝が生まれる。
出雲の王朝がいつ頃生まれたのかは知らない。
しかし、やがて日本神話にその原型の一部を提供することになる古代の歴史が、
間違いなくこの出雲の地にあった。
出雲大社までは結構時間がかかる。
イメージとしては宍道湖の端っこから出雲大社というのは同じ出雲の範囲内で、
そんなに遠い感じがしなかったのだが、
帰ってから調べてみたら、
出雲大社から宍道湖の東端までの距離は都心から八王子までの距離とほぼ同じ。
出雲大社から米子までの距離は都心から小田原の手前あたりと同じ。
島根と鳥取はよく間違えられる。
馴染みの濃い薄い＆現代における存在感なのだろうが、
それゆえか、頭のなかの出雲のイメージも決してそんなに大きな地域ではない。
しかし、実際の出雲は結構広いのである。行って車で走り回ってみると実感する。
駐車場に車を停め、大鳥居をくぐる。
この鳥居のところで結構写真を撮っている人達がいる。なんとなく厳かな感じはする。
長い参道を歩くと向こうに拝殿が見えてくる。
敷地の広い神社だ。さすが国譲りの代償として建てた社ではある。
拝殿にはいかにも出雲らしい太い注連縄がかかっている。
賽銭を入れて子供達のことを祈る。
どこにいっても祈るのはそれだけ、自分のことは祈らない。
それはそれとして、境内にはいったときいやな予感がしたのだ。
拝殿の後ろ、本殿の方に回って、あ～あ、と思った。
工事をしている（＾＾；
本殿の前の方を大きな工事用の幕が囲っていて清水建設と書いてある。
案内を見ると６０年に一度の修理で来年の５月までかかるのだそうだ。
本殿そのものは囲われていないので、垣の外から見ることは出来るのだが、
その前方をデンと囲っている清水建設の幕、なんとも無粋である。
ま、今年が６０年に一度の修理の年だということは、来る前に調べておけば分かることで、
そういうことをしなかった自分が間抜けなのである。しょうがない（＾＾；；
垣の外から本殿を眺める。
やはり大きい。いわゆる大社造りで、たぶん本殿の桧皮葺の屋根は葺き替えが終わった
のだろう、新しく見える。葺き替えが終わる前に来ていたら本殿も幕に覆われていたに
違いない。垣の外から本殿を見ることが出来たのだから、それを幸とするべし。
しばらく境内を見て歩き宝物殿へ。
国宝級のものはみな博物館に行っているのだろうか、ここの宝物殿は小さく、
見にきている人も少ない。
入ってしばらくすると受付の人がふいに天井にぶらさがっているものの説明をしてくれた。
「今、修理をしている本殿の天井にあった八雲を縮小再現したものを展示しています」
見上げると彩色の施された八雲があるのだが違和感があった。すぐに気づいた。
「一個足りないね」
「はい、七つしかありません。これにはいろいろな説がありますが、ひとつは、
　松江の神魂神社の天井の雲が九つあり、そちらに飛んで行ったということです。
　本来、八つのものがこちらには七つあちらには九つ、それはいずれも完成して
　いないということです。完成していないものは前に進むことができます」
なるほど．．．。
完成していないものは前に進むことが出来る．．．か、面白い話を聞いた。
それにしてもあの受付の人は、入ってくる人すべてにああいう説明をしているのだろうか、
参観者が多いととても出来そうにない。
気が向いたときだけ説明するのだろうか（＾＾；；；
礼を言って出ようとしたら隣の古代出雲歴史博物館の割引券をくれた。
それを持って博物館へ。
こちらの博物館も広い敷地にある感じのいい建物。
なかに入ると結構展示が多く、丁度、尼子氏興亡の歴史展もやっていて、
見るだけで時間がかかった。かっては東大寺の大仏殿より高かったという
出雲大社の復元模型も見ごたえがある。
伝承に過ぎないと言われていたが、近年、柱の跡が発掘され、事実であったらしい。
荒神谷遺跡から出土した大量の銅剣・銅鐸とその再現されたレプリカも展示されている。
出土した銅剣や銅鐸は緑青に覆われ暗緑色をしているが、
作られた当時は磨き上げられて金色に光っていたのである。
それをレプリカでみると、確かに美しく光っていて、神聖な儀式に使うのにふさわしく
見える。これらはみな国宝。
博物館を出て昼食をとりに参道に向かう。
せっかく出雲に来たので出雲蕎麦を食べていきたい。
大社の側から参道に入ってすぐのところに行列をしている店があったが、
行列してまで何かを食べる趣味はない。
しばらく行くと出雲そばの幟を立てている蕎麦屋があったが、どうもチェーン店っぽい。
それをパスしてさらに行くと、もう一軒、出雲そばの幟の店があった。
しかし、見ると、「そば」「中華そば」とか書いてある。節操のない蕎麦屋だ、これもパス。
その先さらに行くとフツーの蕎麦屋があった、出雲そばの幟も出てない。
どうもこの先行ってもなさそうなので、そこに入る。
入ってメニューを見ると、いたってシンプル。
暖かい蕎麦が月見そばとあともうひとつ、冷たい蕎麦が割子そばと、その割子そばのつけ汁を変えたもののふたつだけ、アルコールは酒とビールだけというシンプルさ。
どうやら観光客より地元の人相手の店であるらしい。
店の人に「この割子そばというのが、出雲そばだよね」と確認して、それを注文。
アルコールは飲めないのでほうじ茶で我慢。
割子そばが来た。
丸い小さな器が三段重ねになっている。
それと別個に細かく刻んだ青ネギともみじおろしと汁がくる。
「蕎麦には味が少しついてます、汁を少しかけて食べてください」
教えられた通りに食べる。
うん、美味い。腰のある蕎麦で風味もいい。
今回の旅の終わりに空港でも出雲そばを食べたのだが、全く別物だった。
観光客相手でない地元向けの店に入ったようだが、美味しい蕎麦を食べた。
食っている最中に雨が降ってきたが、食べ終わって出たときには殆どやんでいた。
参道の店を眺めたりして駐車場に戻る。今日は他にも行きたいところがある。

Date: 2012/12/06(木)

出雲

１１月の仕事を終えて出雲へ。
今年は古事記編纂１３００年。
その宣伝に乗せられたわけではないが、
以前から神話の里、出雲を歩いてみたかった。
たまったマイルを交換して行きの飛行機はタダ。
出雲空港着が昼過ぎなので出雲大社は明日にし、今日は世界遺産の石見銀山へ。
レンタカーのカーナビをセットすると結構、時間がかかりそう。
大抵、カーナビの予想到着時間より早く着くので気にせずに出発。
しかし、案外時間がかかった。
渋滞しているわけではないのだが、市街地を抜けるのに時間がかかったり、
なにやらのんびり走っている車がいたりで、石見銀山に着いたのは３時過ぎ。
案内所でパンフレットをもらい説明を聞くと、ここから昔の坑道である龍源寺間歩まで
歩いて４５分かかるという。このあたりは銀山で栄えた昔からの伝統的な街並みを保存
するために観光客の車は入れない。歩くか貸し自転車で行くか。自転車だとどれくらい
かかるかと聞いたら、４５分くらいかかると言う。なんで歩くのと同じなんだと聞くと、
「ずっと登りなんです」
なるほど．．．。
どうしよう、ちょっと予定が狂った。そんなに時間がかかるとは思っていなかった。
宍道湖の夕陽が綺麗だというので、今日は夕方までに宿泊先に行くつもりだった。
これから４５分かけて龍源寺間歩に行き、そこから戻ってくると宍道湖に着くのは．．．。
えい、考えてもしょうがない。
歩く、ひたすら歩く。紅葉の美しい谷間の道を龍源寺間歩へひたすら歩く。
着いた。
２０分。
高校生のときから山登りをしているので、脚力だけは人並み少し超えるくらいある（＾＾；
いささか汗をかいたがこれで多少は時間を取り戻し、龍源寺間歩を見る。
間歩（まぶ）と書いて坑道のこと。
鉱脈を求めて固い岩盤を穿ち、その細い隙間に入り込んでなお奥へ掘り進んだ。
「岩の間を歩く」で間歩、というのがよく分かる。
歩いてくる途中にも小さな間歩が点々とあった。今では入口が柵で閉じられているのだが、
這って入らなければ進めないような狭い入口のものもあり、
当時の坑夫は大変だっただろう。
龍源寺間歩は幅１ｍぐらいで高さは普通に立って歩くと頭がちょいとぶつかるくらい。
ところどころ横に掘った坑道があるがこれはもっと狭い。
閉所恐怖症だったらすぐに逃げ出したくなる世界。
しばらく行った先で左から昭和になって新しく掘られた坑道にぶつかる。
本来の龍源寺間歩はここからさらに体ひとつ入るくらいの幅で奥に続いているのだが、
その先で落盤で通れなくなっているらしい。
新しい坑道から外に出るのだが、ところどころ下に小さな丸い盛りあがりがある。
上を見ると１㎝くらいの小さな鍾乳石が出来ていて滴が着いていた。
下に小さく盛り上がっていたのは石筍の出来かけである。
この辺の土は石灰岩を含んでいるらしい。
そのうち何百年かしたら、この坑道は鍾乳洞に変わるかもしれない。
坑道を抜けて外に出る、谷のなかの道を歩いていくと、もと来た道に戻ることが出来る。
帰りはゆっくり歩いた。
空が曇っていて、たぶん宍道湖の夕陽は見られない。
それにせっかく世界遺産の銀山跡に来ているのに、しゃかしゃか歩いてもしょうがない。
かって石見銀山は世界の銀の三分の一を産出した。
ヨーロッパにもその存在が知られ、当時の世界地図にも出ている。
石見銀山のすごいところは、周囲の森が残っていることである。
銀は製錬の過程で当然、火を使う。鉱山の周囲の山が薪をとるために禿山になったと
いうのは、世界では当たり前にあることだが、石見銀山では周囲の森が守られた。
銀を採掘し、製錬するために木を伐採しながら、同時に植林等も行ったのだろう。
環境を守ることが持続的な成長を可能にすることを当時の日本人は知っていたのである。
谷合の間歩から下の集落に続く道は、途中に当時の面影を残す寺の跡や、神社があり、
人々の生活の跡が感じられる。もうそろそろ終わりを迎える紅葉も美しい。
後ろから歌声が聞こえてきた。
「秋の夕日に～照る山もみじ～♪」
昔の小学校唱歌。
龍源寺間歩を見ていたおじさんおばさん４～５人のグループがいたのだが、
私の後ろを歩きながら彼等のうちの一人のおばさんが歌っている。
「濃いも薄いも数あるなかで～♪」
コーラスでもしているのか、よく澄んだいい声だ。
ちょうど道の向こうには見事に紅葉したもみじがある。
「松を彩る～楓や蔦は～♪」
なにか懐かしくなるような歌である。
後ろから聞こえてくる綺麗な歌声に聞き惚れながら歩いた。
紅葉の谷から家並みの続く道に入る。道の左の小学校もかなりクラシックな建物である。
もう宍道湖の夕陽はいい、せっかく来たのだから下の伝統的街並みも見て帰ろう。

２３日の勤労感謝の日、山岳会の仲間と妙義に沢登りに行く予定だったのだが、
あいにくの雨で中止。予定がすっぽり空いてしまった。
さて、どうしようかと思っていたら、
今夜、天麩羅を作るから桜えびを買ってきてくれと言われた。
桜えびね．．．、うん、どうせ予定が空いたからアメ横に行くか。
桜えびだけ買いにわざわざアメ横まで行くなら間違いなく変人だが、
そういうわけではなく、
上野でメトロポリタン美術館展をしているはず。
それを見て、テキトーなところで昼飯食って帰りにアメ横に行けばいい。
家の用事を片付けてから電車で上野へ。
雨が降っているのに人出が結構多い。
幸い東京都美術館は行列もなく入れたが、
国立博物館あたり結構混んでいたのかもしれない。
エジプト・メソポタミアの彫像から絵画やタペストリー、近代の写真まで。
絵画ではセザンヌ、ゴーガン、ミレー、ターナー、ルノワール、ゴッホ等々。
かなり多い展示を見て回っていたら、ひとつの絵が目にとまった。
農村の風景。見渡す限りの麦畑だろうか、
遠景には地平に沈もうとする落日があり、手前には雑草を取っているらしい農婦達がいる。
暮れようとする麦畑で膝をついて雑草を取る農婦達の姿は祈りの姿のようにも見える。
画面の左隅にはひとりの若い農婦が立ち、落日を見ている。
そのおなかは少し膨らみ妊婦のようでもある。
ひとり皆と離れてはるかかなたの落日を見ている若い農婦は美しく見える。
そして、その若い農婦の後ろ上の方には細い月が白く光っている。
広やかな麦畑、
祈りの姿にも似た農婦達、
静かで美しい落日、
貧しい労働の暮らし、妊婦のような若い農婦。
その妊婦のような若い農婦は豊穣の象徴のようでもある。
しかし、その後ろに細く光る月は、
幸のあとでいつか必ずやってくる死を象徴しているように見えなくもない。
印象的な美しい絵だった。
近づいて案内のプレートを読むと、ジュール・ブルトンという画家。
聞いたことのない画家である。
ミレーに似ているが同じ時期の画家だろうか。
描かれている風景の感じにはアメリカ的な広やかさがあり、写実的、自然主義的である。
帰ってから調べてみたら１９世紀のフランスの画家だった。
探してみたら絵画ポスターのショップがあった、こんな絵を描いている↓
http://www.allposters.co.jp/-st/Jules-Breton-Posters_c22858_.htm
展覧会で見たのは一番上の真ん中の絵。
ちょっと小さいので分かりにくいかもしれない。
ふーん、こういう画家がいたのか．．．。
ゴッホの糸杉なども出ていて、そちらの方はかなりの人だかりだったが、
ジュール・ブルトンの方が印象的だった。
うん、いい絵を見た。満足。
美術館を出て少し遅めの昼飯は不忍の池のほとりの伊豆栄へ。
鰻が出てくるまで少し酒をひっかける。
食事後はほろ酔い気分で雨のあがったアメ横を歩き、
買ってきてくれと言われていた桜えびを買って帰った。
雨に降られて山には行けなかったが、
ジュール・ブルトンという今まで知らなかった画家を発見した良い休日だった。

Date: 2012/11/27(火)

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