東京平日歌会、気になった歌。
例によって誌面発表前なのでここには出せないが、
小さくても蟹は蟹、味噌汁のなかからハサミが威嚇している、
そんな歌意の歌。
この歌について、味噌汁に入るような蟹だから、たぶんこの蟹は沢蟹のような小さな蟹で、
ハサミも小さくて「威嚇」は大げさなのではないか、という批評があった。
そのあとの評者も概ねそれに同意する感じだったのだが、
正直言って私はその批評には違和感があった。
確かに味噌汁に入る蟹だからそう大きくはあるまい。
しかし、作者は「威嚇」という言葉を使っているのである。
歌に使われた言葉から伝わってくるもの、それを感じ取るのは大切だと思うわけで、
私は「威嚇」という言葉から、
味噌汁の中からぬっと突き出している蟹のハサミを思い浮かべた。
吸い物と違って透明でない味噌汁から少し開いた蟹のハサミだけがぬっと突き出している。
その形は水面から突き出た溺死者の断末魔の手に通じるものもあるわけで、
たとえ小さなハサミでもそれをリアルに思い浮かべたなら、
「威嚇」という言葉をそれ程大げさとは思わなかった。
むしろ、小さな蟹だろうから「威嚇」は大げさという批評の方に違和感を覚えた
わけである。
歌は作るときも読むときも言葉に対する執着というものが大切な気がする。
作るときはひとつひとつの言葉を吟味するわけだし、
読むときも、その歌に使われている言葉を吟味して読むわけであろう。
作者が選んだ「威嚇」という言葉、
その選択が成功しているかどうかは当然問題であるわけだが、
まず、その言葉から浮かんでくるものを捉え、言葉通りに歌を鑑賞したうえで、
批評するべきではないのか？
あるいは、味噌汁からぬっと突き出している蟹のハサミを映し出すだけで充分で、
「威嚇」という言葉を使わなくても、それを伝えることは出来たのかもしれないし、
そもそも上句の「小さくても蟹は蟹」というなにやら言い古された箴言みたいな
表現に問題があるのだろうし、「味噌汁のなかから・・・が」という辺りも説明的な
雰囲気は否めない。
この歌はそういう部分についてもっと指摘されるべき歌だったと思うわけで、
味噌汁に入る蟹だから小さい→ハサミも小さい→小さいから「威嚇」は大げさ。
その批評のプロセスはなにか違う気がする。なんというか、言葉の吟味という批評において
大切な部分がポロリと抜け落ちた批評のような気がしたのである。
その日の歌会では、この歌以外でもそういう批評が多かった気がする。
歌を一読して抱いた印象だけで歌を語ってしまい、言葉の吟味がついてこない。
最初の印象というのは確かに大切だが、
それだけであればそれは批評というより感想の延長であろう。
歌の言葉に執着し、それを吟味していく。
そういう姿勢が批評には大切な気がするのである。
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Date: 2013/05/04(土)
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