先日、テレビで75歳の女性が甲斐駒ケ岳の岩壁を登るというのを放送していた。 場所は甲斐駒ケ岳赤石沢のダイヤモンドフランケA。 フランケというのは側壁という意味で、甲斐駒ケ岳に突き上げる赤石沢には、 ダイヤモンドフランケA、その斜め上にダイヤモンドフランケB、そして奥壁がある。 いずれも標高差400mぐらいの巨大な岩壁で、日本でも最大級の岩壁。 甲斐駒の岩壁を見ると谷川の衝立岩が小さく見えるものである。 で、その岩壁を登りたいというおばあちゃん。 練習の様子をテレビで見ていると、 「こりゃ、無理だな...」(^^; という感じだった。 よく連れて行ったよね。 というか、テレビの取材が入っているから、なんとしてもという感じだった? ダイヤモンドフランケを登るには大抵、黒戸尾根を登り、そこから岩壁の方に下降して いくのだが、テレビでは違うルート(北沢峠?)から登っていた。 たぶん、おばあちゃんの体力を考えてのことなのだろう。 さらに、岩壁の上から懸垂で下降して、本来のルートの上半分だけを登るという方法。 はっきり言ってかなりアブノーマル。 なんとか登らせてあげようということなのだろうが、かなり無理をしていた。 映像を見ていると、ザイルを掴んだり、上から引っ張り揚げてもらったりで、 テレビのなかで言っていた「完登」というには、ちょっと無理がある感じかな...。 ま、おばあちゃんにとっての「完登」なのであろう。 情熱には敬意を表するし、実際、75歳という年を考えれば立派である。 甲斐駒は私にとって思い出深い山なのだ。 放送していたダイヤモンドフランケAは学生時代に登りに行ったルートである。 黒戸尾根から下降したのだが、フランケAへ下降する踏み跡をうまく見つけられず、 気がついたら、ダイヤモンドフランケBの下に来てしまった。 それで、そのままフランケBを登ったのだった。 ピッチ数で12ピッチくらいあっただろうか。 フランケAへの下降路を探して時間をロスしてしまったため取り付きが遅くなり、 岩壁の上部で日が暮れてきた。 400mくらいの巨大な岩壁。 その只中で仲間を確保しながら日が沈んでゆくのを見ていた。 あのときの夕陽は今も私の脳裏に焼き付いている。 結局、夜間登攀の末、登り終えることができた。 その後、奥壁も登りに行った。 9月の末だったが、行ってみると、ルートに大きなつららがさがっていた。 これでは登れるはずもなく、乾いていてつららのない中央稜のルートに変更して登った。 頂上に登ると、真っ白な北アルプスが見えた。 その年は新雪が早かったのだ。 黄蓮谷を登りに行って五合目の岩小屋で一晩過ごし、翌日、雨に叩かれて降りてきたのも 甲斐駒である。若い頃の思い出深い山なのだ。 だから、あのおばあちゃんの気持ちはよく分かる。 しかし...。 あまり無理しない方がいいな(^^;; 番組の最後で再挑戦をほのめかしていたけど、 今回も周囲はかなり無理してる。 他と違って、山は命がかかっているのだということを認識した方がいい気がする...。 高校から山をやってきて、 今までに3人の仲間が死んだ。 山はどんなに楽しくても、死と隣り合わせの世界なのだということを忘れない方がいい。
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Date: 2011/09/22(木)
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